このピースの物語
このセラミックボウルが生まれたのは、一枚のスケッチからでした。鎌倉の海岸沿いを歩いていたデザイナーが、砂浜に打ち寄せた波が引いた跡に残る円弧の痕跡を見つけました。自然が砂に描いた一瞬の美——それが、このフォルムの原点です。
スケッチを手に工房を訪れると、陶芸家の中村氏はすぐにその意図を理解し、「波の記憶を器に閉じ込める」という共通のビジョンを持って制作が始まりました。最初のプロトタイプから完成品に至るまで、7ヶ月の試行錯誤が重ねられました。
特に難しかったのは、釉薬の調合でした。石英砂を配合することでの焼成時の挙動の変化に対応しながら、理想とする「クリスタルのような透明感と土の温かみの共存」を実現するために、20種類以上の釉薬テストが行われました。現在の石灰釉の配合が確定したとき、二人は同時に「これだ」と言ったそうです。
このボウルは、単なる食器ではありません。鎌倉の自然と職人の魂と、二人のデザイナーの対話が凝縮された、静かな物語の器です。